2022年9月、無印良品を展開する株式会社良品計画とAirbnb(エアビーアンドビー)の日本法人は、宿泊施設の多様化と地域の活性化に寄与することを目的に包括連携協定を締結した。両社は全国の空き家や空き店舗をはじめ、伝統的古民家や自治体が所有・管理する住宅などを共同でプロデュースし、双方の強みを生かした多様性に富んだ宿泊施設をAirbnbプラットフォーム上で展開していく計画だ。
第一弾として、去る6月にAirbnbと連携協定を結んだ北海道清水町が管理する移住体験住宅3戸について、良品計画がインテリアコーディネートおよびリノベーションを実施しており、すでに2戸はAirbnbにてリスティング登録され、ゲストに利用されている。
今回は、株式会社良品計画 空間設計部・林部長、設計デザイン・野元さん、管理調達・村上さん、北海道事業 企画開発・北崎さん4名に、これからの地域社会においてMUJIが担える役割について語っていただいた。
“足るを知る”暮らしと、“暮らすように旅をする”。
’80年代より長きに渡って、過度な装飾や社会的コストを減らした暮らしそのものを提案し続けてきた良品計画と、人々の日常の延長線上にある非日常の旅を提案しているAirbnb。2社が交じり合い、ともに価値を共有できた点について、良品計画としてどのような思いからはじまったのだろうか。
「2018年、弊社内にソーシャルグッド事業部という部署ができました。地域の活性化に寄与することを念頭に置いた新規事業の担当部署です。過疎地における移動販売“MUJI to GO”事業などがその例です。そのチームが全国各地につながりをつくっていくなかでAirbnbさんとご縁をいただいたのがきっかけです。Airbnbさんが民泊や移住に関するコンテンツをさまざま考えていらっしゃるとうかがい、空間設計部でも移住に関わる事業を担当したことがあったので、『一緒に動いていきましょう』となったのがはじまりです。
弊社の宿泊事業といえばMUJIホテルなのですが、昨今は泊まる形態も地域を旅する形態もいろいろです。より地域社会に必要な、空き家を活用したりするサステナブルでカジュアルな宿泊スタイルもいつかは手がけてみたいと思ってきました。1社ではすべてをこなすのがむずかしいなか、Airbnbさんとパートナーシップを組むことで、これまでイメージしてきた内容がやっと具現化された感じです(林部長)」
いざ訪問してみると、ものすごく魅力的だったという清水町。そこでの暮らしのイメージもその場ですぐに湧いたという。
「Airbnbさんとは特に事前の打ち合わせもせず、清水町で初めてお会いしました。話の内容や、『ここがいいね』と思うポイントもとても似ていて、肝心な話が盛り上がりました。初めての訪問だったにもかかわらず、町職員のみなさんをも含めたチームビルディングがすぐにでき上がりました。プロジェクトが始まってから動くまでがすごく早かった(林部長)」
創業時よりいままで、そしてこれからも、人々の暮らしをさまざまな視点で捉え、日常について深く透察することに力を注ぐ良品計画。そのアウトプットは無印良品店舗に一歩足を踏み入れれば手に取るようにわかる。
あらためて、今回のプロジェクトに対して良品計画が貢献できることは、どんなことなのだろうか。
「私たちはずっと日常について、人々の暮らしについて考えてきてました。衣・食・住のすべてを考えていけるというのは大きな強みです。暮らしに関わることすべてが私たちの仕事の領域だという認識でいます。
例えば、知られていない地域の食をどのように伝えていけばいいのか。また実際その地域へ訪問したときに、それをどのように体験できれば人々に伝わるのか。そういった点は柔軟に考えていけると思います。
Airbnbさんとの協業で目指すところは、ゲストのみなさんが仕事に必要なもの以外のツールはすべて手ぶらで、お試し移住や地域を巡る旅を体験できるようにしていけたらと想像しています。Airbnbさんと一緒に実現させたいですね(林部長)」
良品計画によるコーディネートを終え、運営され始めた移住体験住宅は以下の2戸。すでにAirbnbプラットフォーム上に掲載してあるのでチェックいただきたい。
移住体験住宅 清水2号/1DK一棟貸し(おひとりさまに対応)
www.airbnb.jp/rooms/696655454504902803
移住体験住宅 清水3号/2DK一棟貸し(2名さままでに対応)
www.airbnb.jp/rooms/696730123506975965
“衣・食・住、暮らしに関わることすべてが自分たちの領域”と語る良品計画は、どのような考えをベースに具体的な空間づくりとディテールに落とし込んでいるのだろうか。実務を担当した3名にお話しをうかがった。
「今回の清水町の案件では、“日常の家”というコンセプトをベースに、宿泊する人数にかかわらず、旅と暮らしの両方の雰囲気を楽しんでもらえるようなコーディネートを考えました。例えば家具は、ゲストたちみずからが過ごしやすいよう部屋の模様を変えられる、折りたたみ式や可動性がある製品を選びました。ベッドは、ソファーとしても使えるなど複数の用途を持つプロダクトであると同時に、なるべく低く、空間を広く感じさせてくれるデザインをセレクトしています。
1年ほど前に、九州で同じく移住体験住宅のリノベーションを担当しました。そのときに『あったらよかっただろうな』と記憶に残る生活小物も、清水町のご担当である高橋さんと一緒に話し合ってくわえていきました。清水町で暮らす醍醐味のなかで“食”は外せないもののひとつだと思いますので、食器類と調理小物は充実させました。
それと移住体験住宅をゲスト自身の住空間と考えたとき、自分の家だったら彩りを添えると思うんです。そのような視点から、北海道事業 企画開発・北崎さんがアートや植物の鉢を置くことを提案してくれたので、より居心地の良い空間ができあがったと思います(管理調達・村上さん)」
林部長曰く、これまで日本全国の移住促進をはじめとした地域創生事業に関わってきたなかで、気づいたことがあるという。それがいま、空間設計部がソーシャルグッド事業を続けていく際に根底に流れるアイデアのベースになっている。
「地域を訪れ、『今晩泊まっていただく場所です』とご案内いただく移住促進住宅の多くで空き家を活用していること自体はとてもいいことだと思います。しかし多くの場所では居抜き状態のままなのです。そのため、家のなかに入っても地域の暮らしが見えてこない。毎回そこに違和感を感じていました。
移住を頭の片隅に持って体験しに来るゲストの方々は、きっとその地の日常に近い部分を見つつ、移住促進住宅に帰って料理をしたりお風呂に入ったりしながら「この街のここが良かったな」と振り返る時間をつくると思うんです。それが寂れた空間のなかではいい印象にはならないよな、といつも感じていたのが根本にあるんです(林部長)」
Airbnbと清水町とのプロジェクト第一弾の一部を完遂して、あらためて地域のにぎわいづくりに寄与することへの充実度を感じていらっしゃる空間設計部のみなさん。それぞれどのような点において、この仕事に対する魅力や醍醐味を感じていらっしゃるのだろうか。
「北海道をベースに活動している私は、より泥臭く地域に入り込んでやっていくスタンスです。今後も施設の空間構築を軸に、地元の人たちと一丸となって彼らの役に立ったり、地元を良くしていこうという思いを汲み取りながらともに動いていくことで、地域の可能性はどんどん広がっていくと思いますし、自分たちの成長にもつなげていけると思っています。
都市部からふらっとリフレッシュがてらの短期滞在もいいですし、ちょっと自分を見つめ直したり、自然しかない場所で仕事をしたら、いいアイデアが生まれてくるかもしれません(北海道事業 企画開発・北崎さん)」
「今回の案件は移住促進住宅という名目ではありますが、Airbnbさんと協業するなかで思ったのは、真剣に移住を考えている人たちはもちろん、Airbnbさんのサイトを普段から利用するような若い世代の方々にも宿泊いただくことで、清水町がどんな町かちょっとだけ体験できる。つまり、二拠点居住や移住自体について興味を持っていただけるような、カジュアルに利用できる施設にも育っていくといいなと思っています。宿泊する名目のハードルを下げるといいますか。そういった体験がどんどん広がっていけばと感じています(設計デザイン・野元さん)」
「私も地方出身者なので、実家に帰ったりすると地元のいいところをすごく感じます。清水町のみなさんも地元の良さを声高にアピールするわけではないのですが、気持ちがすごく伝わってくるので、今回お手伝いができてすごく嬉しい気持ちになりました。移住未満であっても、各地が活性化するような事象が日本全国で起こったらすごく楽しいだろうなと思います(管理調達・村上さん)」
「私も清水町には初めてうかがったのですが、本当にいいところで。ただ、いわゆる観光地ではないので、宿泊できる場所があまりなかった。こういった取り組みによって、あまり知られてこなかった土地で過ごせる時間が増えることによって、いままで伝え切れてこなかった町の魅力を知ってもらえる新たな可能性を実感しています。
そして、これは清水町に限らずだと思うので、他の地域でも貢献したいとあらためて考えさせてくれる場所でした。実際に足を運んでみないとわからない土地の魅力というのは絶対にあるので、どんな要素がその土地の魅力やテーマになるんだろうと妄想する時間は楽しいですね。
実際はまだ夏しか行けてないので、冬はどうなんだ、と。本当はそこまで突っ込んで移住体験を考えたいんです。快適な状況のときだけ体験して、あとで『こんなんじゃなかった』っていうことにならないよう、生々しくその地域の暮らしを伝える活動をしていきたいですね(林部長)」