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移住と同時にかなえた
一棟貸し宿オーナーという夢

高知県 高田さんご夫妻

2024年9月24日取材

高知県中西部に位置する四万十町は、町内を四万十川が横断するように流れる、自然豊かな町。ここに、良品計画による洗練された家具や生活用品、そして地元特産の木材や建築素材を用いながらリノベーション&コーディネートされた、ちょっと変わったリスティング『一棟貸しの宿Hinoki』がグランドオープンした。

実はこのリスティング、四万十町への移住・定住促進のため、無印良品を展開する良品計画と自治体とが協業し、空き家を整備して希望者に賃貸する“中間管理住宅”の仕組みを活用したもの。

移住希望者が、母屋を暮らしの場、離れを宿泊施設として運営できるよう、あらかじめセッティングを施した上で貸し出すことで、移住・定住を検討する際にいちばんの足枷となる仕事の確保を当初から解決できる。
ちなみにこの取り組みは、2022年10月に良品計画と四万十町の間で締結された地域振興に関する連携協定の一環となっている。

高田さんたちご家族が入居した中間管理住宅の母屋。外からやって来る人々を受け入れやすい広い玄関土間スペースが特徴的な家屋だ

ここの家主であり、宿主は、高田直哉さん・樹利奈さんご夫妻。応募2組の中から、四万十町へ移住することに対する意志の強さや明確さ、また協調性や積極性なども決め手となり、選ばれた。

「以前住んでいた四万十市と、今いる四万十町は距離的にも近く、ドライブがてらよく訪れていたこともあり、四万十川の清流がいまだ残る自然豊かな土地で暮らしてみたいという憧れをずっと持ってやってきました。プラス、僕らはもともと独立欲があり、将来自分たち自身で事業をやってみたいという思いも抱いてきたので、初期投資の面を考えただけでも、非常に大きなチャンスと捉えました」

町内を流れる四万十川の中流域に架る向山橋。この辺りは急流にあたるため水の抵抗を考慮し曲線を取り入れた構造は、四万十川の数ある沈下橋の中でも特に優れた意匠として知られている

以前は四万十市内の海からほど近い場所で暮らしていた高田さんご夫妻だが、前回とは打って変わって、少し内陸の台地に棲み家を求めた。その理由のひとつは、防災のこと。

「こちらに引っ越してくる前は、四万十川の河口域に住んでいました。1歳と2歳の子どもがいるので、少なからず今後の地震への備えも頭の中にありました。海から離れていて、地盤が強いと言われているこのエリアの地理的特徴も魅力に感じたんです」

山あいの大地に純農村風景が広がる

町の政策として、長きにわたって移住・定住の促進に力を入れてきた四万十町。非常に見やすい町の公式Webサイトや、SNSを積極活用した移住関連ポータルサイト、またリアルでは非常に多くの中間管理住宅が活用されている。

「空き家はたくさんあるのに、貸りられる家がない」というのは田舎でよくある話しだが、良心的な賃料、かつ最長12年まで賃貸が可能という条件は、右も左もわからない初めての土地で暮らしを築いていこうと意気込む移住者たちに優しく寄り添う施策といえる。

なかでも、仕事の糧となる宿泊施設運営に使えるプラスアルファの建物がセットになった中間管理住宅は稀であり、さらにそれらの物件のリノベーションとインテリアコーディネートを“暮らすこと”のプロフェッショナルである良品計画が手がけているといえば、文句の付けようなどない。

「幼い子たちがいながらも、自分たちで独立して宿を運営できることに、未来への希望をすごく感じています。また四万十町は、保育園の手続きも非常にスムースで、移住対象の一端である子育て世代への待遇の手厚さも感じます。さらには、良品計画さんが全面コーディネートした空間を宿泊者に提供できるという点で、潜在顧客にアピールしやすいといったブランディング的視点を期待できたのも、大きな決め手です。自分たちだけの力では到底できることではありませんから。無論ソフト面でも、ウェルカムサービスで無印良品のコーヒーをご提供したり、アメニティで同ブランドのシャンプーやリンス、化粧水といったものを統一して置いておくようにしています」

母屋と隣り合わせの離れは良品計画がリノベーションを施し、宿泊施設へ。キッチンの設備やダイニングの家具ほか、ほぼすべてのインテリアを同社の商品でコーディネート
リネンやタオル、アメニティ類も無印良品の商品で統一されている

2024年7月初旬の入居後からこの2カ月は、申請関係など目まぐるしい日々が続いた。町内ですでにリスティングを切り盛りし、スーパーホストとして活躍する先輩家族からのアドバイスも受けながら、プレオープンの練習期間を経て、9月24日に施設は無事オープン。
高田さんご夫妻の暮らしの新たなフェーズが始まった。

「ゲストの方々には、日本最後の清流とも言われる四万十川でのアクティビティはもちろん、紅葉シーズンや冬季の夜空の星の美しさなど、年間を通して魅力を感じてもらえる地域だと思っています。そして、こちらに移ってきてからはすぐに皆さんから、私たちが地域に打ち解けられるよう気さくに声をかけていただいたり、立派に育ったお野菜をわけてくださったり。特に、この地域は温かい方々ばかりのようで、まだ2カ月余りしかここで過ごしていませんが、まるで一年以上住んでいるかのような気持ちになっています。民泊を運営していく上では、地域の“人”こそ、四万十町を語る上でいちばんの魅力だと感じています」

リスティングの窓の外にあふれる自然の中で、ふと目にする地域の人たちの日常は私たちの日々の喧騒をちょっぴり忘れさせてくれる
地元作家にお願いをして藍染めした暖簾が母屋の外観のアイキャッチに

リスティングの予約状況は、上々。オープン直後の週末はもちろん、10月は4件、11月は3件ほど、すでに予約が入っており、約半数はインバウンドの利用客だという。子どもたちにとっても、早いうちから異文化に触れる絶好の機会だ。

「今後は四万十町ならではの体験プランや、温泉の入浴券をつけたりなど、この宿に泊まってもらうことで、地域のことも同時に知ってもらえるようなリスティング運営を心がけていけたらと思っています」

毎年5月下旬〜7月初旬は蛍の見頃。特に下津井の川辺を乱舞する蛍の光は圧巻