悠久の歴史がある京都――そこには数百年以上かけて受け継がれてきた伝統工芸の技術がある。
放送局・毎日放送(MBS)は番組制作やイベントなどを通じて、京都の職人たちと深く関わってきた。世界的に評価される仏教美術、建築、着物など日本文化を影から支えてきた職人たち。彼らが持つ技術を、日本人にとどまらず、諸外国の人に体験していただきたい。
そこで、宿泊だけではなく、体験を提供するホストとゲストをつなぐプラットフォームAirbnbと連携し、伝統を誇る京都で活躍する新時代の職人たちの技術と魅力を世界に発信するプロジェクトをスタートさせた。
「私達は『京都知新』という番組を制作しています。京都の伝統文化を守りながらも時代にあわせて進化を続けてきた職人たちにに焦点をあて、これまでに仏師、蒔絵師、染織家などを取材してきました」(大西さん)
「多くの職人さんが、1200年という悠久の歴史の中で受け継がれてきた伝統を基盤に、新しさを追求しています。それをただ“見る”だけでなく、多くの人々に“体験”していただきたい。何代にもわたり、ひたむきに技を極めてきた職人さんたちの作業を見ながら、体験することは、人生のヒントや変化をもたらしてくれます」(藤岡さん)
「日本だけでなく、世界に向けて紹介するには、Airbnbのほかに、パートナーは考えられませんでした。Airbnbの“体験”は、現地に暮らす人々が、ローカルな体験を提供するもので、多くの人に認知されています」(大西さん)
「今回の連携で、京都の職人さんたちの世界の“内側”をゲストに体験していただけることになりました。これは、通常の観光メニューではなかなかできないことだと自負しています。最初は、提灯、水引、仏像彫刻、つまみかんざしという4人の職人さんたちの体験プログラムからスタートしましたが、今後も陶芸や染め物など、プログラムを広げていきたいと計画中です。これらの体験プログラムは、MBSのWEBサイト「京都知新」で紹介しています」(藤岡さん)
『京都プロジェクト室』が提供する、京都で活躍する新時代の職人の体験プログラム4件をWEBサイト「京都知新」で紹介。Airbnbより予約が可能。
江戸寛政年間に創業した小嶋商店は、『京・地張り提灯』専門の老舗だ。竹を割るところから、絵付けまでを行っており、京都南座の大提灯や、全国の寺社仏閣の提灯を手掛けている。
ここで体験できるのは、“ちび丸”という小さな提灯に、好みの紙を貼っていくというものだ。
「提灯には大きく2種類あり、一般的なのは竹ひごをらせん状に巻く巻骨式提灯です。私達の『京・地張り提灯』1本1本独立した竹骨を1つずつ輪にして糸で結い、和紙を張る製法のことです。京都でもこの技法で提灯を作っているところは数社しかありません」(小嶋俊さん)
今回で最初に手にするのは、提灯の骨組み部分だ。よく見ると、その竹のラインの美しさに驚く。そして、貼ってみるとなかなか難しい。
「張った提灯は、家でランプとして使えます。和紙から漏れるライトの暖かい灯りが心地よい雰囲気を醸し出してくれます」(小嶋俊さん)
水引は奈良時代に中国から伝わり、日本独自に変容してきた。もともとは、宮中への贈答物の包装の帯として使われていたようだが、花、亀、鶴などの造形物になっていった。
今では、結婚式などの慶事をはじめ、用途に応じて様々な儀式に用いられている。
これは、京都在住の日本を代表する水引作家・森田江里子さんとメッセージカードを作る体験プログラムだ。
「水引は、日本ならではの伝統文化で、礼法では欠かせないものです。和紙と糸で作られた紐で、四季の美しさや、感情や気持ちなどを、糸を結んでいくことでできる造形で表現します。水引は今や冠婚葬祭を中心に用いられていますが、普段の生活をもっと彩るものでもあります。今回の体験では、水引の美しさや特性を知り、ご自身の手で結んでいく楽しさを感じていただけるはずです」(森田さん)
親子三代に渡り、京都で「御仏像・京仏具」の製作を行っている冨田工藝。数々の寺院の彫刻や仏像修復、皇室位牌修復などを手がけてきた。その受け継がれてきた最高峰の技法は、専門家の信頼も篤い。木から選定し、数年かけて仏像を彫ることもあれば、国宝クラスの仏像の修復も手がけることもある。古の職人の技を知り、それを現代の仏像の制作に生かしていく……まさに“温故知新”である。そんな京職人の彫刻を体験できるのがこのプログラムだ。
「この体験では、寺社仏閣巡りに欠かせない御朱印帳に仏像や、仏教美術に関連したモチーフを彫っていただきます。私達の工房は、六波羅蜜寺や三十三間堂といった古刹がある京都有数の寺町の入り口にあります。そんな場所で、仏様のお姿や、法話に登場する“波に兎”などを彫刻刀で描いてから、お参りに行くという、私達にしか提供できない体験です。モチーフはプリントされたものですが、想像したものと、できたものは違うと感じるはずです。なぜなら、そこに体験した方の考え方や心の状態が現れるからです。そんな、もの作りの醍醐味を味わってください」(冨田さん)
京都・紫野の名刹である大徳寺総門の目の前にある、つまみかんざしで名高い「おはりばこ」の工房とショップ。徒歩圏内に金閣寺、今宮神社、建勲神社、金閣寺などがある、“京都らしさ”を味わうには絶好のロケーションだ。
つまみかんざしは、舞妓さんに愛されている髪飾りだ。可憐に揺れる繊細で優雅な花モチーフのこの装飾品は、世界中の女性の心をとらえている。
おはりばこ のつまみかんざしは、京丹後産正絹の羽二重地に、京都で手染めされた生地を使っている。これを、小さく正方形に切り、つまんで糊付けしていくというシンプルなもの。京の職人たちはこれを“どこまで美しく仕上げられるか”腕を磨いてきた。
「つまみかんざしは、つける方を美しくしてくれるもので、七五三や成人式の時に使われています。私達は若い女性の装飾品にはとどまらないつまみかんざしの魅力を多くの人に知っていただきたく、ブローチやコーム(櫛)なども製作しております。これが日本だけでなく、外国人の皆様にも愛されてまいりました。
今回の体験は、装飾品にはとどまらない、つまみかんざしの魅力伝えていきたいと願い、モチーフを使ったインテリアオブジェを企画しました。この体験により京職人の技、色彩感覚、美意識を感じていただけるはずです。ご自身でアレンジしたものは、性別や世代はもちろん、文化の枠を超えて、暮らしを彩ることを願っています」(北井さん)
体験は、築100年の京都の町屋で行われる。この庭は、二条城の門松を手がけた「涼景植長」がおはりばこのスタッフとともに作り上げた。
「今後も、京都に息づいてきた文化をより深く伝えていく体験プログラムを、京職人の皆様と共に作り上げていきます。暮らし、食べ物、着物や装飾品…京都には、まだ知られざる匠の技がたくさんあります。それを私達は発見し、広く世界に発信していければと思います」(藤岡さん)
京提灯の小嶋商店のブランドである『小菱屋忠兵衛』でオリジナル提灯作りを楽しめる体験教室。ろうそくのゆらめきを表現するLEDライト付き。出来上がった「ちび丸」はそのまま持ち帰れる。
[小嶋商店]
住所:京都市東山区今熊野椥ノ森町11-24
所要時間:最大90分
対応言語:英語
水引と和紙でメッセージカードを作成。水引で体験者が作るモチーフは、(写真左より)ミニバラ、小菊、桜の中から好きな花と色を選ぶ。
[和工房 包結]
住所:京都市下京区東洞院通綾小路下ル扇酒屋町276-2-505
所要時間:60分
対応言語:英語
彫刻刀を使い、御朱印帳に、阿弥陀如来、蓮など、仏教美術にちなんだモチーフを描く。完成した御朱印帳でお寺巡りを。
[冨田工藝]
住所:京都市東山区五条橋東2-36-2
所要時間:90分
つまみ細工の技術を活かした様々な髪飾りと、工房を見学。その後、つまみ細工で作った花と花びらを選んでオリジナルの絹張り木箱の中に、和のフラワーボックスを作る。
[おはりばこ]
住所:京都府京都市北区紫野下門前町25
所要時間:90分
対応言語:英語