世界一周旅行。YukaさんとMasatoさんは、―日本人の誰もがやってみたいと思っても、なかなか実現できないこと― そんな挑戦を、夫婦で、しかも若くして達成させた。その大きなきっかけとなったのは、Yukaさんの乳がん発症だった。入院している際、「病気が治ったら、お互いがやりたいと思っていたことを、なるべく早いうちにやろう」と、話し合っていたという。そして治療が終わった直後、二人は仕事を辞め、およそ1年半という長い期間の旅に出かけたのだ。
当時、Yukaさんは日本語教師、MasatoさんはIT企業に勤めるサラリーマンで、お互い忙しい毎日を送っていた。「忙しくてちゃんとしたハネムーンにも行けてなかったですし、今思うと、(病気は)いいきっかけだったんです。それがなかったら、たぶん今でもサラリーマンをやっています」とMasatoさんは振り返る。
旅の当初はホテルを転々としていたそうだが、旅仲間にAirbnbのことを教えてもらったのを機に宿泊先として検討。それぞれの土地に住まう人の、リアルな生活に触れられるという点にも惹かれ、Airbnbを利用し始めたという。
「特に思い出深いのは、1カ月くらい滞在していたモロッコです。訪れた頃はイスラム教のお正月に当たる時期で、各家庭で行う犠牲祭という伝統的な儀式に参加させてもらったんです。現地の衣装まで着させて頂いて、とても快く受け入れて下さいました。ホストの方に、日本について興味があるかと聞いたところ、音楽や食事など、私たちが思っていた以上に日本について興味をもっていることがわかって。その時から、日本に帰ったら何かお返しができたらなと少しずつ思うようになってきました」(Yukaさん)
「モロッコでは日本のマナーに関する番組がテレビで放送されていて、すごく人気を集めているんですよ。内容は通学や接客の仕方など、僕たちにとってはごく当たり前なことばかりなんですけど、『会う人会う人、皆に本当にあんなことやっているのか』と聞かれて驚きましたね(笑)」(Masatoさん)
無事帰国した後、これといってやりたいこともなかったというのだが、「旅をしている間に出会った人に、以前の生活について話をしたら『働きすぎだ!そんなの人生じゃない!』って本気で怒られたことあって(笑)。元のサラリーマン生活には戻りたくなかったんです」とMasatoさん。そのことが契機となり、昨年の6月よりAirbnbの宿泊先のホストを始めた。YukaさんとMasatoさん、そして看板犬のPoohが暮らす東京の西、ひばりが丘にある一軒家で新たなスタイルの暮らし方が始まった。このお宅は、元々Yukaさんのおばあさんの持ち家。余った2階の部屋をリスティングとして活用しているという。
「私はおばあちゃんの影響で、5歳の頃からずっとお琴を習っていました。大学生の時には師範免許も取得しました。ゲストの方には、日常のなかにお琴があって、気軽な感じでお琴に触れてもらっていたのですが、それが結構、喜んで頂けているなという実感があって。宿泊先の仕事に慣れてきた頃、Airbnbが体験企画をはじめると聞いて、それなら本格的にお琴を教えてみようと思い、登録したんです」(Yukaさん)
宿泊するためのホストの延長線上の試みではあったものの「いざはじめてみると緊張してしまって、どうやってゲストさんと接し、教えればいいのか最初のうちはわからなかった」とYukaさんはいう。そんな不安な気持ちが切り替わったのは、ある言葉を聞いてからだった。
「偶然にもAirbnbの創業者で、CPOのジョー・ゲビアさんが来日の際にお琴を教える機会を頂けて、『琴にも興味があるけれど、それより琴をしている君に興味がある』と仰って頂いたんです。そこで答えがわかったというか。もちろんお琴のテクニックも教えるんですが、私自身がどうしてお琴はじめたのかをまずお話させて頂くことにしたんです。例えば、おばあちゃんが元々(お琴を教えるということを)やりたかったことなんだけれど、戦争があったせいでできず、孫の私に託してくれたんです、とか。体験を提供するうちに、お琴は私にとって家族の絆の証なんだ、ということに改めて気づかされたんです」
二人の将来の目標は、海外でお琴や日本の伝統文化を教えること。
「ゲストの方に、『私の国にも来てよ!』っていわれるんですよ。確かに今、海外で日本食が流行っていると聞きますし、海外で奥さんがお琴の教室をもつチャンスがつくれたらいいなとも思いますね。まずは今の活動を地道に続けていって、輪を広げていきながら、お琴の存在を知る人が世界中に増えていけば嬉しいなと思っています」(Masatoさん)