関⻄空港からのアクセスも良く、⽢くて瑞々しい泉州⽔なすや採れたての刺⾝が絶品の⽊積たけのこも有名な⼤阪・⾙塚市。寺社仏閣が点在する歴史的なまちなみも魅⼒で、国の登録有形⽂化財に登録される町家も多く、⾍籠窓などの伝統的な意匠もそこかしこで⾒られる。そんな⾙塚市で、地域のホスト同⼠が経験を共有し、学び合う『ミートアップLink』が開催された。地域の魅⼒をどのように捉え発信していくか、より良いホスティングについて考える勉強交流会となった。
集まったのは、⾙塚市内をはじめ岸和⽥市、泉佐野市、阪南市など泉州地域でリスティングを運営する20組ほど。ゲストをもてなして10年の熟練ホストから“この夏に営業を始める”という参加者までが⼀堂に会した。
イントロダクションを経て、まずは⾙塚市の担当者が登壇。室町時代から江⼾時代初期にかけ、願泉寺を中⼼に寺内町として発展した⾙塚のまちなみの⾵情や、泉州⽔なす、⽊積たけのこなどの地場野菜のほか、⽇本の⼣景百選にも認定される⼆⾊の浜公園の⼣陽や、要眼寺の⼤広間からのぞむ⽇本庭園といった情緒ある景⾊についてプレゼンテーション。⾙塚観光ボランティア協会のガイドによる寺内町のまち歩きも⾏われ、「知っているはずの景⾊なのに⾒え⽅が変わった。回ったところをゲストにも案内したい」という声もあがった。
⾙塚の不思議な郷愁感や居⼼地の良さ。その魅⼒について、3 組のホストに話を聞いた。
2016 年から地元の⾙塚市でリスティングを営むのは、今回のミートアップの発起⼈でもあるShinyaさんだ。「泉州地域は関⻄空港からのアクセスが便利で、なんばや梅⽥に向かう海外からの観光客が、深夜便で着いたときに1泊だけするような“通り過ぎられる場所”でした。そのため、私が⾙塚で⺠泊を始めようとしたときは、“本当にここに⼈は来るの?”と⼼配されましたよ」と当時を振り返る。
しかし、今の状況は少し変わってきているという。宿に泊まったゲストたちから、「⾙塚がこんな良いところだったとは」「1泊だけにしたことは間違いだった」といったレビューが寄せられており、繁華街にはない⼤阪の新しい⼀⾯を感じられる、隠れた宝⽯のような場所として注⽬を浴びつつあるそうだ。
そもそもShinya さんがAirbnb(エアビー)ホストになったきっかけは、中国・上海でAirbnbを使ったことから。「ホストに連れて⾏ってもらった、看板もないローカルな店の朝粥が驚くほどおいしくて。そのホストに出会ったからこそできた経験だった」とShinyaさん。そこで⾃分も同じように、感動や満⾜感のある体験を誰かに提供したいと考え、空き家となっていた離れを改修してリスティングを始めた。
⾙塚に親しんできた地の利を活かして、お気に⼊りの店を紹介することも多い。よくゲストを連れていくのが、⻑屋をリノベーションした創作料理のお店。旬の味が染みる彩り良い料理はどれも絶品で、必ず喜んでもらえるそうだ。「ガイドブック頼りではたどり着けない、ホストと出会うことで味わえる何気ない⽇常やありのままの暮らし。それこそが、⾙塚の飾らない魅⼒ではないか」とShinyaさんは話す。
⾙塚市を⾛る、⽔間鉄道。始発の⾙塚駅から終点までを5.5キロメートルの短い距離で結ぶローカル線だ。終点の⽔間観⾳駅より徒歩7分、⼤正時代からある⺠家をリノベーションした『みずまの宿』を運営するのがホスティング歴9年のRisaさん。川のせせらぎに抱かれる静かな宿は、穏やかな時間を過ごせると評判だ。
「単線列⾞に乗って向かう決して便利ではない地ですが、たくさんのゲストが来てくれています。梅⽥やなんばなど中⼼部で楽しんだ後、“⽇本での旅の終わり”を、ここでゆったり過ごしている印象です。2〜3泊される⽅や、1週間ほどのんびり滞在されるゲストもいますよ」(Risaさん)
Shinyaさん⽈く、⾙塚は“不思議な⼼地よさがある”、と⾔われることも多いという。観光地から少し離れて過ごしたい⼈にも、ちょうど良いようだ。その理由についてShinya さんは、「つくり込まれ過ぎたものや、新しく建てたものには出せない魅⼒というのがあって。たとえば古⺠家の魅⼒は、その家が経てきた“歴史を味わえる”ことだと思うのですが、そういう魅⼒が刺さっているのではないか」と考えている。
寺内町として栄えた名残がうかがえる商家や古⺠家が多く残り、まちなみの魅⼒を形成している⾙塚。その歴史的建造物の⼀つが、築250年になる「旧吉村家住宅(寺⻄家住宅)」だ。
吉村家は、油屋や両替商を営んでいた商家で、主屋が江⼾時代の中期に建築された⽊造⽡葺きの建物。寺⻄興⼀さん、チエコさんご夫妻が2017 年に買い取り、『つなぐ古⺠家』として再⽣した。
踏みきったきっかけは、この伝統的な家屋が不動産会社によって売りに出され、建売住宅に変わってしまうかもしれないと⽿にしたこと。⼤阪府登録⽂化材所有者の会の代表であった興⼀さんは、すぐに⾙塚へ⾜を運び、“江⼾時代から守ってきた良い建物を潰すわけにはいかない”と、即決に近い形で購⼊したそうだ。
できる限り現存のものを残しながら7 年ほど修繕を重ね、“泊まれる登録有形⽂化財”として営業を開始。江⼾時代のロマンを感じられる趣はもちろん、「⼤きい家に住み慣れているサンフランシスコやロサンゼルスのゲストからは、“広いからほっとする”という声をもらいます」とチエコさん。着物の着付けなど⽂化体験もできる。
“海外から⾒た⾙塚”を通して、その魅⼒に改めて気付かされることもある、とShinyaさんは⾔う。「宿泊した⽅から、『ベーカリーで買ったパンを⾷べてコーヒーを飲んで、稲穂が揺れている稲⽥をのんびり散歩する。その時間が1番楽しかった』という感想が届いて、しみじみ感じたことがあります。もちろん便利で華やかな観光地も良いけれど、⾙塚には“何もしない贅沢”があるのだなと」。
偶発的で予期しなかった体験、それが旅を思い出深いものにしてくれる。ホストがいたから叶う体験、というのがそのまちの魅⼒を広げていく種となるのかもしれない。
寺内町として栄えた⾙塚の中⼼寺院。“ぼっかさん”として親しまれる。室町時代に建⽴され、重要⽂化財の本堂や太⿎堂、府指定⽂化財の銅鐘など、江⼾時代の伽藍がほぼそのまま残されている。
浄⼟真宗本願寺派の寺院・尊光寺の境内にある、天然記念物に指定されるカイヅカイブキ。樹齢300 年〜400 年と推定され、幹の直径は60 センチメートルを超える。⽼⽊の⾵格は⼀⾒の価値あり。
ZEN HOUSE OSAKA/スーパーホスト Shinyaさん
https://www.airbnb.jp/rooms/9174649
みずまの宿/スーパーホスト Risa さん
http://www.airbnb.com/h/mizumanoyado
つなぐ古⺠家/寺⻄興⼀さん、チエコさん
https://www.airbnb.com/rooms/1303274393687822797